[2視目]『ケイコ、目を澄ませて』/彼女の「音」に耳澄ませ、自分の心の声に耳澄ませ

『ケイコ、目を澄ませて』より

主人公のケイコは生まれつき両耳が聞こえないボクサー。
ゴングの音もセコンドの指示もレフリーの声も聞こえない。
そんな中、相手の動きにじっと目を澄ませて闘うケイコ。
秀でた才能を持つ主人公としてではなく、情熱、不安、迷い、そんな葛藤にもがきながらも一歩ずつ、歩みを進めていく等身大の女性の心のざわめきを描いた作品。

上映中、彼女が発した声は「ぁい」「うぐぁぁっ」くらいだった(聞き逃していたら申し訳ない)

ケイコの闘う姿、彼女の表情から聞こえてくる「心の声」は五月蝿いくらいだった
また、彼女が発する音、彼女を取り囲む音が頭に、心に残っている。
こんなにも劇中の「音」を記憶している、心に残っている映画はないだろう。

耳が聞こえないハンデを背負って闘うボクサーとしてのケイコ
「タッタッタッタッ」と縄跳びを飛ぶ彼女
「パンッ、キュッキュ」とスパーリングする彼女
「バシッバシッ」と殴り合う彼女
「ペッ」と血を吐く彼女
「うぐぁぁ」と相手に向かっていく彼女
「カンカンッ」鳴り響くゴング。

彼女がボクサーとして発する音。
彼女は自身が出す音すら聞こえない。けれども、その音に、こちらは心打たれる。

そして、耳が聞こえない一人の女性として日常を送るケイコ
「ガリッ、ガリ」と氷を噛み砕く音
「シャシャシャ」とペンを走らせる音
「ブーブー」となり続ける電話
「ピーンポーン」となるインターホン
「〜♪」奏でるギターの音、歌う弟
「ガタンガタン」となる電車

多くの日常の音が彼女を取り囲んでいる。こちらからは、彼女の日常が感じられる。

ボクサーとしてのケイコ、ボクシングをしていない時のケイコ。
その両方から、ケイコ1人の心の声が痛いほど、伝わってくる。

彼女が発する音に耳を澄ませる
そして、彼女が訴えかけてくる表情目を澄ませる。
「ケイコは何を伝えたいんだろう」「今、何を思っているんだろうか」と考える。

鑑賞というより、視聴。
スクリーンに最大限、齧り付く。

この映画には、派手な演出も、大きな展開もない。
終わりまで、淡々と日々が過ぎていった。

驚くことに、BGMも主題歌もなかった。
主題歌もないまま流れ行くエンドロールを見たのは初めてかもしれない。

だからこそ、無音の映画館で、
最後の最後に視聴者は「自分の心の声」に向き合うことになる

「この映画を見て、何を思う?」

そんなことを問われているような気がした。

エンドロール中に聞こえてきた
おじさんのいびき
急いで飲み物を飲み干す人
帰っていく人の足音
小声で話すカップルの声

そんな彼ら・彼女らの”雑声”が聞こえることは、幸運なことかもしれない。